暦本先生と末吉代表

Koozytalk

対談企画

2022.6.21
Koozytは、ソニーCSLからの初のスピンアウトベンチャー

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)
暦 本 純 一

「人馬一体」という言葉に象徴されるように、究極のテクノロジーは人間と相対したり、人間を置き換えるものではなく、 人間と一体化し、人間を拡張していくものだと考えています。 従来のHCI(human-computer interaction)が人間と機械との界面(Interface)を意識した研究領域なのに対し、 私は人間と技術との融合(Human Computer Integration)と呼ぶべき領域に特に着目し、 人間の拡張という意味で“Human Augmentation”を提唱しています。「拡張」の範囲は、 知的なものにとどまらず、感覚、認知能力、身体能力、存在感、身体システム(健康)に敷衍して考えることができます。 このような発想から、"JackIn"と呼ぶ人間や機械への感覚の没入、体外離脱視点による能力獲得などの研究を行っています。 人と人、人と技術がネットワーク上で融合し、その能力が相補的に拡張されていく未来社会ビジョン、IoA (Internet of Abilities)を提唱しています。

クウジット創業時の思い出に残っているエピソードは何ですか?

暦本:なんといっても、PlaceEngine(Wi-Fi電波の位置測位基盤サービス)の電波クローリングを自分達でやったことですよね。
場所ごとの周囲のWi-Fi電波が必要で、車や人がクローラとなって収集しなくちゃいけないんですけど、 今だとGoogleストリートビューがやってるようなことをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。 それを創業者3人でアルバイト数人と一緒に、一番最初は、銀座四丁目を歩くっていうのをやりましたね。
末吉:そうそう、銀座でやりましたね!まず暦本さんのアイデア、原理試作をもとに、銀座のデータ収集をやってみて、これはいける!となったら、全国に広げていこう!となりました。
暦本:銀座は、とりあえず近くで試行錯誤できるし、有名だから、そして、四角く碁盤の目になっているからも理由でしたね。
そのあと、末吉さんが、タクシーでやればいいんじゃない?とひらめいて、タクシーでクロールもしましたね。 タクシーは、車が自動的に徘徊してくれるからGPSとそのWi-Fiクロール装置を一緒にこうタクシーに設置させてもらって。 タクシー運転手は特に何もしなくてもクローリングしてくれることになるんじゃないかというアイデアでしたね。
末吉:ツテをたどって、とあるタクシー会社さんにご協力いただきました。
暦本:当時まだ、あのGoogleストリートビューなどが出る前の時代なので、 人海戦術でリアルにクローリングするって概念もあまりなかったですよね。伊能忠敬も日本中旅して地図をつくったので、 それの現代のWi-Fi電波マップをつくろう!としてやってましたね。
末吉:クウジット創業メンバーで社名を考えたときに、(伊能忠敬からの)InoTadやPlaceEngine株式会社という社名案もありましたね(笑)。
暦本:技術は変遷するので、それが終わったら、会社も終わるのか、といわれたら、そうではないだろうと。だからもう少し抽象的な企業理念に入れてみようと出し合いましたね。
暦本&末吉:「空と実をつなぐ」というコンセプトで!
末吉:実際、PlaceEngineが、iPhone上でつかえなくなってしまって、商売のネタがなくなっちゃった時期がありました。 Androidも出る前だったし。それで別の暦本さんの研究成果のサイバーコードっていうARマーカー技術を使ったサービスをはじめたり、笑顔計測技術を使ったアプリケーション開発をはじめたのも同時期でしたね。 ソニーCSLに在籍していたとき、暦本さんからずっと言われてた話に、何かアイデア思いついたら、世の中に同じこと考えてる奴が20人はいると思え、というのがありましたね。
暦本:必ず20人っていうわけではないですが、いなかったとしたらつまんない。誰でもやられているか、捨てられた技術かですね。
末吉:かつ、それをどう花開かせるかっていうタイミングが重要だ、と言われてましたね。社会の背景とか技術の成熟度だとか、運もありますし。
暦本:時の運が大きいかもしれない。エジソンの電球もそうだけど、たまたまのちょっとした微妙な理由で勝つか負けるか、というような。
末吉:テクノロジーは勝ち負けですかね?
暦本:最終的にどっちが勝った、負けたは、わからないですね。技術的な規格でも、機能性でも、最初、技術者が思ってたよりも消費者が違う所を欲しがるって言うのもよくある。 時代が変わると価値観も変わる。最終的に勝ち負けというより、まあ巡り会わせですね。
末吉:はい、巡り会わせですね。同時代に、あまたある研究技術シーズの中で、 たまたま暦本さんとPlaceEngineに巡り会って、ソニーCSLから会社としてスピンアウトさせてもらったっていうのはありがたいことです。
未来の当たり前をつくるために、一番最初のPlaceEngineの電波クロールの人海戦術みたいな泥臭いことを厭わずやれるってこと、それが、クウジットの起源ですね。

現在、行っている研究について教えてください

暦本:最近のテーマは、割とAIと人間の融合ですね。 サイレントボイスをやっていて、喋らないでも意思が通じる、口の動きとささやきで、ニューラルネットでリアルタイムに音声認識する。 つまり、街中や電車の中で「今日の天気は?」ってコンピュータに向かって一人でしゃべるの嫌じゃないですか。言いたくないですよね。
手で書くのは面倒くさいけど、口でパッと言うのは楽。 口の中でもごもごって言っているだけで、コンピューターが情報をとれれば、コンピューターにそっと聞くことができたら、それは外から見たら、 頭のよい人に見える...かもしれない(笑)。それはたぶんうまくいくと究極のウェアラブルインターフェースになるのではないかと。
末吉:未来の当たり前になるような気がしますね。この手があったか!的ですね。 ささやきボイスのようなアイデアは、どういう時に思いつくんですか?そこにピンと来ても、それを掘っていこう、これだ!って決めるにしても、 まず決めるのが難しいと思うのですが。
暦本:サイレントボイスの場合は、ディープラーニングブームのブレイクスルーがきたので、ちょっとさすがに勉 強しなくちゃだめだなと。で、ゴールデンウィークとかを全部潰して勉強したんですよ。 ここでAIの波に乗らないとまずいなって思って。もともとAIの研究者じゃなかったのですが、連休10日間ぐらいずっとぶっ通しで勉強していたら、 ニューラルネットつくれるようになっていましたね。
末吉:いつの連休ですか?サイレントボイスやる前だから、5,6年前の話ですか?
暦本:そうそう、ディープラーニングが来た頃です。けっこう本気で勉強するとその後できるってありますよね。 AI勉強して自分なりにこうニューラルネット動かせるようになったら、画像とか認識ができるようになるじゃないですか。 そうこうしているうちになんか超音波映像を取り出したら、音になるんじゃないかと思いはじめて、サイレントボイスは取り組み始めました。
末吉:そこのやっぱひらめきが、さすがですね。サイレントボイスは、いろんな応用領域が広がりそうな感じですね。
暦本:もちろんデバイスが進化して、たとえば皮膚にあるパッチみたいなやつとかになればハンディキャップの人でもできるような未来を描いてみたり。
末吉:いったん原理ができて、これは便利だ、とか公共に益するとかなって、 やっぱり未来のライフスタイルのニーズに合わせて技術が進化して、普通になっていくんですね。
ちなみに、京都ラボのこの和室にある装置は何ですか?
暦本:研究としては10年ぐらい前のものなんですけど、「ジャックイン・スペース(JackIn Space)」といって、 空間をまるまる3次元にしてキャプチャして、世界を合成、再構成するようなものを作ってます。こういったものは、 プラットフォームになるので、ここ京都ラボのデモでは、お茶室なんですけれども、今ここに誰かが座っているような感じで遠隔地の人と一緒に共同作業したりとか、 いわゆるテレポーテーションのようなものができますよね。いまだと、かなり環境が整ってきているので、リアルタイムで、空間をまるまる三次元にキャプチャして、 現実と仮想の重畳ができてしまう。お茶のお手前を一回記録したら、無限にここでお手前を先生してくれるんで、 ちょっと止めてもう一回みたいな。
メタバースが今キーワードとなっていますが、ジャックイン・スペース研究は、まさに社会実装フェーズですね。
末吉:社会実装フェーズといえば、やはり10年ぐらい前の暦本研/ソニーCSLの研究で「ハピネスカウンター(Happiness Counter)」、 笑わないと開かない冷蔵庫がありますね。現在クウジットが取り組んでいるemmyWash(エミーウォッシュ)、笑わないと噴射しない除菌液装置がありますが、 これも、「ハピネスカウンター」研究が源流です。どうして「笑わないと…」っていうのをやろうと思われたんですか?
暦本:あれは最初、学生に相談されて、「時間が来たら開く薬箱」だったんですよ。 忘れがちになっているときに使うというアイデアで、それはそれで素晴らしいんだけど真面目すぎるなと思って。 何をしなくても箱が開いていた。そうじゃなくて、「何何しなければ~」の方がよいなと思ったんです。 だから何かをしないと開かない、というプロダクトが良いと思って、最初は笑わないと開かないジュエリーボックスだったんですよ。 必ずにっこりしてるから、楽しい気分倍増されるだろう。と
末吉:いいですね。最初はジュエリーボックスだったんですね。
暦本:それが日常の動線上の冷蔵庫になった。 当時は、笑顔認識そのものが難しい技術で、ライブラリーも手に入らなかったんです。 ソニーのサイバーショットに笑顔認識機能が組み込まれてたので、それをそのまま使ったんですよ。 だから、カメラが「パシャッ」とシャッター落ちるのをセンシングするには?を逆に考えて、当時のマイコンでセンシングしたんです。
末吉:なんと、日曜大工的というか。
暦本:そう、最初のギークハックの話、面白いでしょ?
末吉:はい!おかげさまで、その笑顔計測にまつわる活動が、脈々とクウジットでも続いていて、育ててます。 もともとのハピネスカウンターの笑顔インタラクション研究に、幸福学的な意味を与えて、発展させたのがemmyWashです。 全国で10万回の笑顔が貯まると一台、小学校などの教育機関に寄付するというプログラムにしています。 今、ウェルビーイングがキーワードとしても流行ってますが、当時の暦本さん研究も、継続して使うと柔和な笑顔になるとか、そういう話でした。
暦本:家に置いたら毎週毎週、毎日使用するので、笑うトレーニングだったんですよ。 笑顔練習すると、笑顔になる、という当たり前なんですけど、写真で見ると分かるのですが、本当に高齢者って笑わないんですよ。 笑う場面も無いじゃないですか。人工的でいいから、「にかっ~」って意識的に笑うのをやると、表情筋も鍛えられて、楽しそうな顔になるんですよね。
©Sony Computer Science Laboratories, Inc.     

これからのテクノロジーのあり方や、クウジットに期待することなど、 アドバイスをお願いします

暦本:期待していることは、やはり人間拡張に関連した領域ですね。
AIをうまく道具として活用して、それが社会に還元されるという循環になるとよいですね。AIが意識を持つ壮大な話とはちょっと別かもしれないけども、 いたるところにAIが入ってくると、社会がすごい楽になるような、 そういう社会の中に根付かせるっていうポイントがいっぱいある。
いま研究レベルから実装レベルまでがそんなに距離が無いですよね。例えばGoogleとかで割と論文レベルのAIが、 もう本当に数ヶ月ぐらいで検索サービスとかに実戦投入してる時代。だからフットワークが昔よりもかなり軽くなっていると思うんです。 その中で未来社会の便利さや豊かさを作れるっていうところが大事なんじゃないかなと思いますね。
末吉:やっぱりそうですよね。 未来社会の便利さ、豊かさって、例えば、どういうことですか?
暦本:僕の場合なら、京都にいながら東大教授会に出るとかはとても良いじゃないですか。 本当の温泉にいながら、メタバースとか。 昔だったら何言ってんの?みたいな話です。
末吉:自分を時分割もしたいですよね。
暦本:実は会議に参加しているのは、自分じゃなくて賢いBOTで、人が話しかけてくるのを察知するAIがあれば、 最初からちゃんと聞いてましたよって顔できますよね(笑) 。そういうのがあると世の中で自由時間が増えるじゃないですか。 好きな暮らしを選ぶオプションが増えて、昔みたいな通勤地獄とかがなくなり、好きな場所に暮らして、美味しいもの食べるっていうのができればいいなと思いますね。
末吉:ある程度、自分の分身が対応してくれてさばいてくれる、エージェント、身代わりになってくれるような存在はいいですね。
暦本:社会が「豊か」っていうのは別にお金をたくさん稼ぐと言う意味ではなく、例えば普通に鴨川歩いて美味しい鮎食べたり、 温泉浸かりながらメタバースとか、リアルな普通を楽しみながら、ITならではの利便性も両立できる。そんな風になっていってほしいなと。
そこにやっぱり、クウジットが活躍できる領域があると思うんです。
末吉:いいですね!暦本さんの研究の場合、技術ありきじゃなくてどちらかというと、 こんなのがあったらいいなって言うところからの発想が大きいのですか?
暦本:その両方のマッチングですね。当然どこでもドアが欲しいわけです。 けど、どこでもドアそのものはできないけど、どこでもドアみたいなものには使えるかな、という技術のセットがいろいろある。 それがギリギリつながるか繋がらないかのところを探っている感じです。
末吉:まさに、空と実をつなげているわけですね。
懐かしいエピソードから未来のことまで、たくさんのお話をありがとうございました!
これから先、Koozytと一緒にやりたいことはなんですか?

「こんなのがあったらいいな」とみんなが思う
未来社会を便利にしてくれる技術を社会実装していきたい

2022.6.21
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室にて
https://www.sonycsl.co.jp/member/tokyo/206/

Contact Us

まずはご相談から