保井先生と末吉代表

Koozytalk

対談企画

2022.10.6
テクノロジーを通じて、ウェルビーイングな社会をつくる

広島県公立大学法人 叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部 学部長 教授
兼 慶應義塾大学大学院システムマネジメント研究科 特別招聘教授
保 井 俊 之

1985年東京大学卒、財務省及び金融庁等、パリ、インド並びにワシントンDCの国際機関や在外公館等に勤務したのち、 地域経済活性化支援機構常務取締役、国際開発金融機関IDBの日本ほか5か国代表理事等を歴任。 慶應義塾大学大学院で2008年から教壇に立つ。 2011年国際基督教大学から学術博士号。米国PMI 認定Project Management Professional。 日本創造学会評議員、地域活性学会理事兼学会誌編集委員会委員長、PMI日本支部理事、ウェルビーイング学会監事、 一般社団法人エミーバンク協会理事兼最幸顧問。

叡啓大学について教えてください

末吉:保井先生は、2021年4月に開学した、広島県立の叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部に学部長・教授として就任されています。 今日は、ここ叡啓大学を訪問させていただいていますが、まず大学についてお話を聞かせてください。
保井:はい。叡啓大学は「22世紀型大学」として、社会を前向きに変える人財、すなわちチェンジ・メーカーを育てて学士号を授与して世に送り出す、日本初の大学です。 学部は、ソーシャルシステムデザイン学部のみの一学部です。
末吉:どんなことを学べる大学なのですか?
保井:世の中こんなに複雑になってくると、経済学や政治学などの一本の「学問」の物差しを修めただけでは複雑な社会の課題はうまく解けません。 そこで、自ら「知」の物差しを複数本持つ学びを修めましょう、というリベラルアーツの「知の再統合」の概念を、 社会課題解決人財育成の教育ビークル(乗り物)の両輪のひとつとして大切にする大学です。
そして、この教育ビークルのもうひとつの車輪が、日本最大規模で実施する課題解決演習(PBL)などの実践体験科目です。 そしてこのビークルの学問的基礎として、システム思考、デザイン思考及びクリティカル思考という思考系ツールがあり、 さらに情報コンピュータ技術(ICT)と実践英語の集中プログラム(IEP)も徹底して履修するカリキュラムとなっています。
叡啓大学に入学した学生たちは、学修した複数の「知」と「実践」の物差しを使い、 経済学者クリステンセンがかつてイノベーションを起こす力の基礎と呼んだ、 いわゆる知と実践の「結びつけ能力」を「ソーシャルシステムデザイン」理論として身につけ、世に出ていって活躍してもらおう、と研究・教育を行っています。
末吉:なるほど、まさに新しいタイプの大学なのですね。卒業生が出て社会で活躍しはじめると、 フィードバックもかかるし、ソーシャルシステムデザインの考えが社会に実践され、生きてきますね。今後が、楽しみです!

クウジットとの取り組みについて

末吉:今までクウジットと一緒に活動してきた取り組みや、現在、保井先生が研究されている内容など、 そのあたりのお話をお伺いしつつ、対話させていただきたいと思います。
保井:末吉さん、クウジットと一緒に研究していることって、実は、ものすごくシンプルなことだと思いますよ。 ずばり「テクノロジーを通じて、ウェルビーイングな社会を実現する」です。そのために研究と実践をともにやっています。
末吉:キャッチワードにすると、「ウェルビーイングxテクノロジー」となりますね。
保井:はい。「ウェルビーイング」を超訳すると、「心の幸せ」となります。この領域の研究を志したきっかけは、 みんながウェビーイングを日々感じながら生きられるようになりたい、それを実現していきたいのですが、 今日の日本の現状を見てみると、世の中の仕組みや流れの中で受け身な感じで、すごく辛そうだったり、悲しそうだったり、 苦しそうだったりする人たちが残念ながら多い。 だったら、ウェルビーイングな生き方とかウェルビーイングな社会のありかたそのものを自分たちでデザインできるようになりたいと思ったわけです。 いわゆるウェルビーイング中心デザイン(well-being centered design)という考え方に基づき、その手法の研究や実践方法の研究を行い、 論文などを科学的手法に則り、出版していくのが我々のアプローチです。
末吉:そのアプローチに果たすテクノロジーの役割は、いろいろとありますね。
保井:テクノロジーは、ウェルビーイングの実現にとって、ものすごく強い要素です。 しかし、これまでは真逆に思われていたフシがある。
ウェルビーイングな社会を実現するためには、ひょっとしたら敵なんじゃないかって思われてきたふたつの媒体。 その一つがテクノロジーです。技術は人を不幸にするとか、かつてよく聞きませんでした?実は全然違うんですけどね。
末吉:ジョージ・オーウェルの小説『1984』など監視社会に代表されるディストピアとか、 人工知能(AI)の学習能力が人間のそれを追い越して、人間の仕事が奪われる「シンギュラリティ」みたいな話は、よくありますね。 ちなみに、もうひとつは何ですか?
保井:もうひとつは「おカネ」なんです。
おカネは人を不幸にするとか、人生お金だけじゃない、とひとはよく言いたがります。 しかし、いやいや、おカネも単に社会でひととひとをつなぐビークル(乗り物)ですよと言いたい。 おカネは、無色透明な存在。ひとをつなぎ、関係を促進し、結果を加速する。ひとを幸せにも不幸にもする。
だから、「おカネ」と「テクノロジー」を使ってウェルビーイングな社会を実現し、みながそれをデザインできる手法を一般化して、 その実現を少しでも加速できないか、ということをずっと研究しているのです。
末吉:その研究活動や成果の一部が、笑顔の循環経済を目指す、エミーウォッシュであり、 ご一緒しているエミーバンク協会の活動ですね。 エミーウォッシュには、その研究的背景として、保井先生らとの「エミーとゼニー」の共同研究があります。最初に、保井先生にお会いしたのは、2015年でした。
保井:プロジェクトマネジメント協会(PMI)日本フォーラムの会場か何かで声をかけてくださったのですよね。
末吉:慶應義塾大学大学院システムマネジメント研究科(慶應SDM)の委員長(当時)で、 日本のウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司教授に、クウジットの笑顔計測技術などを紹介し、 何かご一緒できませんか?って持ち込んでいたんですね。 時期を同じくしてPMI日本フォーラムの会場で保井先生をお見かけして、慶應SDMの特別招聘教授も兼任されているのを知っていたので、 ご挨拶したい!と。その後、保井先生が共同研究者として手を挙げてくれて一緒にやりましょう!となり、その後「エミー&ゼニー」研究が生まれました。
保井:「エミーとゼニー」のネーミングも由来がありましたよね。
末吉:はい。一緒にブレストしていく中で、先生が地域通貨の研究をされていたので、 広義のおカネはどこから来たか、すなわちおカネの起源は、感謝・恩送りであったのだよ、という話をしていただき、 幸せとおカネについて研究をしていくことになりました。私は、技術畑出身なので、笑顔計測技術を使った「エミタメ」※の話と、 その背景にある笑顔の力を可視化するコンセプト(エミーとゼニー)の話をしたんです。
(写真左右) 前野先生、保井先生とクウジットとの共同研究の様子
(写真中央)江上さんとエミー&ゼニーWSを全国で開催
※2012年に電通国際情報サービス(現電通総研)とクウジットの共同研究プロジェクトで、笑顔認識技術を用いたデジタルサイネージを開発し、 笑顔量を測ってソーシャルグッドに紐づけた。チャリティイベント「エミタメforチャリティ」などを開催。 「エミー」(笑み)と「ゼニー」(銭)のネーミングは、同プロジェクトのコンセプトデザインに携わった福田桂さん(デザイン茶室マフマフ)、 本條陽子さん(ソニーCSL)らが命名した経緯があります。
保井:「エミー」と「ゼニー」、それは語呂がよい!となって、人を笑顔にする、幸せにするおカネとは?から、 「ひとを幸せにするおカネを創る」共同研究が生まれました。
末吉:はい。それが、通称「エミー&ゼニー」研究ですね。
保井:研究は行動科学の実験からはじまりました。 エミーとゼニーのふたつの「おカネ」の行動原理は、人々の行動を実際にどう変えるのだろうかというような。 簡単な「商店街のお買い物ゲーム」「お店屋さんごっこ」みたいな実験を大人向けにゲームとしてデザインするところから始めました。 最初の「エミー&ゼニー」ゲームは、ケーキのパーツを売買する商店街のお店が、ホールのケーキの完成を競い、 紙のおカネでケーキのパーツを売り買いするゲームだったんです。
ふたつのセッションに分かれていて、どちらのセッションも売り買いのルール自体は、同一です。 ふたつのセッションで違うのは、それぞれのセッションを通じて参加者が従う行動原理だけ。 最初の「ゼニー」セッションでは、お金儲けだけ、自分の利益を最大化することを唯一の行動原理にします。 次の「エミー」セッションでは、他者への恩送りと感謝を最大化することを唯一の行動原理にします。 そうしたら、参加者の反応がセッションごとに大きく分かれました。 ふたつのセッションで、参加者のウェルビーイング度(幸福度)が有意に異なり、行動様式やパターンも変わったのです。
末吉:それで面白い!となりまして。 ちょうど、当時知り合ったばかりの「価値を大切にする金融実践者の会(JPBV)」代表理事で、 ご自身の会社URUUを立ち上げたばかりの江上広行さんにこの実験のお話をいたしました。 もともと江上さんと保井先生はつながっていて、面白そうなゲームを始めたっていうのを知って駆けつけてくれて、一緒にやろう!となりました。
保井:私が当時勤務していた財務省の最後のポストとして、ワシントンDCに赴任する間際でした。
末吉:ワシントンDCに行くので、あとは二人でよろしく!って言って託されたという(笑)。 それで江上さんとふたりでエミー&ゼニーワークショップを開催しながら、全国23か所をまわったんですよ。
保井:研究の成果を日本の2つの学会で論文等として公表し、ポジティブ心理学の世界的研究大会で数回発表しました。 いまやエミーとゼニーは、科学としての概念です!
末吉:ですね。いま現在の研究活動に話を移しましょう。
保井:エミー&ゼニーのゲーム型ワークショップ研究の後、人によってそれぞれ異なる、 主観的ウェルビーイングとおカネに関する価値観、いわゆる貨幣感とウェルビーイングの間の構造分析をしてみようとなりましたね。
末吉:クウジットでは、ソニーコンピュータサイエンス研究所の磯崎隆司シニアリサーチャーが研究開発した因果情報分析技術「CALC」を社会実装しようと事業化を推進しています。 そこで、このCALCを使って、おカネの使い方とウェルビーイングの間で直接的相関の経路を4つくらい特定しました。
保井:2021年に発表された原著論文の中で、 CALCを使ってウェルビーイングなおカネの使い方として4要素(正の相関としては、 「友達のため」「社交のため」及び「経験のため」、弱い負の相関として「ひとりでいるため」)を特定しました。 この論文が採録された後に、実際の地域通貨でもそれが本当なのか実証実験してみよう!となりました。 そこで、地域社会や福祉・介護にお詳しい法政大学大学院 政策創造研究科の高尾真紀子教授と、さきほどのURUU江上さん、 そして末吉さんとチームを組み、実在の地域通貨を使い、実証実験することになったのです。
その実証実験がこの秋に始まります。そのフィールドは、鎌倉です。面白法人カヤックの「まちのコイン」という地域通貨があり、 この「おカネ」が我々の実験の一番要件に近い通貨プラットフォームなのではないかと考え、また鎌倉は、 循環経済を創造してウェルビーイングな街づくりを行う壮大な政策的取組みを始めていて、相性が良いと感じました。
末吉:なるほど。結果が出てくるのが楽しみですね!
保井:実は、さらに「ウェルビーイングxテクノロジー」の研究の輪は広がっています。 クウジットとブレストしている中で、地域のウェルビーイング度を可視化したり、 天気予報みたいにして予報できるといいよねっていう話になりました。 「ウェルビーイングxテクノロジー」の幸せ天気予報を作れないだろうかと。 ショートメッセージやTwitterなどのつぶやきを人工知能(AI)に読ませると、 そのメッセージ等がどのくらいの幸福度なのか判定できるような仕組みが出来ないかと考えたのです。
末吉:はい。いまクウジットの慧(KEI) 自然言語解析エンジンでは、 主観のポジティブ/ネガティブ及びその評価対象を出力できます。これをウェルビーイング度判定まではいけるかどうか、保井先生と研究を始めています。
保井:それができれば、将来的には、日本全国でみんながTwitterで今日の気分をつぶやくと、あー、 今日の東京は幸福度ちょっと低いなあ、でも広島は高いぞとか、幸せ天気概況や幸せ天気予報みたいなのになり、 エビデンスベースの公共政策決定(EBPPD)に生かせるんじゃないかというアイデアです。
末吉:うん、おもしろいですねえ。ぜひ協創していきましょう!

これからのテクノロジーのあり方や、クウジットに期待することなど、 アドバイスをお願いします

末吉:さて、そろそろまとめに入りたく。 クウジットのテクノロジーの特徴を保井先生なりの言葉にしていただけるとうれしく思いますが、どうでしょうか?
保井:さまざまなテクノロジーの力があるんですけれども、クウジットは、2つのウィング(翼)をもっていると思うんです。
末吉:ウィングといいますと?
保井:ウィングというか、テクノロジーの領域なのですが、おおまかに言うとテクノロジーのベクトルは次の二つに分けられると思うのです。
一つはでっかいデータの塊をぎゅっとすごくシンプルな一つの結果に要約できるという力。例えば、ビッグデータからの解析がそうです。
末吉:なるほど。あと、もう一つとは?
保井:一見バラバラ見えているものに、つながりを見つけ出す力ですね。 例えば、システム思考からの因果ループ分析などです。
末吉:あー、なるほど。クウジットのAIデータ解析事業のなかのAIアルゴリズム開発とCALCデータ解析の話ですね。
保井:ええ。ビッグデータから傾向、特徴を見出していくAIの力。 そして、一見見えにくくなっている要素間のつながりを可視化して、あ、こういうつながりだったのか!と分析を導き出すのが、CALCの考えですね。 この二つがとても特徴的。なので、クウジットの持つ両翼、二つのウィングと言いました。もちろん、これだけではないとは思いますが。
末吉:ありがとうございます!まさに、クウジットのAIデータ解析の特徴をまとめてくれました。 CALCには、潜在的なものを顕在化させる能力があって、それと従来のAI的なアプローチと組み合わせることで、独自の強みと役割になっていくと考えています。
「ウェルビーイングxテクノロジー」というテーマでの協創活動。今後とも、ご一緒していければと思います。本日は、ありがとうございました!
これから先、Koozytと一緒にやりたいことはなんですか?

「ウェルビーイングxテクノロジー」というテーマでの活動を
共につくり続けていきたいです

2022.10.6
広島県公立大学法人 叡啓大学にて
https://www.eikei.ac.jp/

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